私たち研恒社は、創業以来53年にわたり校正サービスを主軸としながら、企画・印刷・出版を手掛けてきました。この間、印刷業界はアナログ(紙)からデジタル(データ)へと大きく変化してきました。今回は、この変化の中で当社が培ってきた経験や対応についてご紹介します。
かつて印刷は、版下と呼ばれるデザインした台紙やレイアウトを組んだ原稿を作成後、フィルムにその版下を転写し印刷版を作る工程が必要でした。しかし、1985年にアメリカでOAツールの一環として誕生したDTP(デスクトップパブリッシング)が、1987年頃に日本に導入されたことをきっかけに、印刷業界はデジタル化の波を迎えました。
それから30年以上が経ち、現在ではPDFデータが印刷の基本データとして広く使われています。このデジタル化により、WordやExcelといったビジネスソフトから直接PDFを生成し、そのまま印刷工程に進むことが可能となり、大幅な効率化が実現しました。
デジタル化へ移行の初期には、MacintoshとWindowsでのフォント情報の違い、2つのOS間での互換性の違いから、PDFデータを印刷する際に「文字化け」という現象が頻発していました(図1)。しかし、技術の進歩によりフォント情報のフォーマットが共通化され、合わせてPDFにフォント情報を埋め込む機能が標準化されたことで、これらの問題は大きく解消されました。
とはいえ、古いバージョンのフォントや旧環境で作成されたデータでは、PDF変換時にフォントが埋め込まれないケースもあり、課題が完全に解消されたわけではありません。
図1:文字化け例:左が文字化け、右が元原稿
(原因:フォント情報が埋め込まれていないため)
印刷では、フォントが埋め込まれていないPDFを使用すると、印刷環境に同じフォントが存在しない場合に文字化けが発生するリスクがあります。そのため、フォント埋め込みはPDFデータを正しく表示・印刷するため重要です。特にオープンタイプフォント(MacとWindowsの両OSで読み込み可能なフォント)の普及により、プラットフォーム間での互換性が向上していますが、フォント埋め込みができないPDFでは依然として課題が残っています。
当社では、クライアント様から提供されたPDFデータについて以下の確認と対応を行っています
文字化けの主な原因として、環境依存文字(例:(株))、特殊記号や丸数字、ローマ数字などのOS環境に依存する文字が挙げられます。ただし、最新のフォントでは問題が少なくなり、文字化けのリスクも大幅に軽減されています。
デジタル技術の進展により印刷業務の効率化が進む一方で、依然としてフォントや文字の扱いには慎重な対応が求められます。フォント埋め込みの重要性やアウトライン化の必要性を理解したうえで、クライアント様と連携しながら信頼性の高い印刷物を提供することが、当社にとって欠かせない役割と考えています。